自分を看病してくれた人に恩返しがしたい・・・
このような場面でお悩みではありませんか?
Iさん(74歳)は、奥さんと死別してから、長男であるJさん(54歳)とJさんの奥さんであるKさん(47歳)、孫のLさん(23歳)と同居しています。Iさんは以前脳卒中で倒れたことがあり、以来右半身に麻痺が残っています。日常生活にも支障があり、現在は週2回の介護サービスを利用するのに合わせて、KさんLさんが主に介護をしています。
IさんにはJさんの他、Mさん(53歳)、Nさん(51歳)、の子どもがいます。兄妹3人の仲はいい方ですが、皆遠方に住んでいて、頻繁に交流があるわけではありません。
Iさんは倒れるまで商売を営んでおり、それなりに成功もしていましたので、自宅の土地・建物と、いくつかの銀行に預金があります。
Iさんは、今まで献身的に看病してくれたKさんやLさんに、自分の財産を分け与えることで恩返しがしたい、とのことで相談にいらっしゃいました。
「長男の嫁」は相続人ではありません
自分のお子さんは当然に相続人ですが、お子さんの配偶者(Iさんから見てKさん)は相続人ではありません。また、Jさんがいる場合、Jさんが相続人の欠格事由にあたったり相続人から廃除されない限りLさんは相続人にはなりません。
そこで、自分の介護をしてくれたKさんやLさんに財産を残したい、と考えた場合、遺言でKさんやLさんに財産を遺す旨を記載しておかなければなりません。
ここでも問題となるのは、その他の相続人の遺留分を侵害しないように気をつける、ということです。
生前にKさん達と養子縁組をして、KさんやLさんを相続人としておくことも可能です。ただ、相続の場面では感情的な対立が生じてしまう可能性もありますので、養子縁組をした場合には、遺言で他の相続人にも配慮をしておく必要があるでしょう。
一つの解決策
まず、各相続人の遺留分を確認しておきましょう。今回のIさんの相続人となるのは、Jさん、Mさん、Nさんの3人です。全てIさんのお子さんですので、遺留分は全体財産の1/2です。そして、この遺留分が各人に配分されますので、Jさん、Mさん、Nさんとも、遺留分は1/6(=1/2×1/3)となります。
住まいを確保する
現在IさんとJさん一家が住んでいる土地、建物は、Iさん名義ですので、これを相続人の一人であるJさんに相続させます。
ただし、他の相続人の遺留分に配慮する必要がありますので、不動産の価値は予め確認しておくことが必要です。
残りの財産を分ける
残りの財産を分ける場合には、包括遺贈をすることが考えられます。
包括遺贈とは、特定の財産ではなく、相続財産の何分の一、のように割合で財産を渡すことですが、こうすることで個別の財産の割合を考えなくても、遺留分を侵害する可能性が低くなります。
今回の遺言では、Kさん相続財産の1/6、Lさんには相続財産の1/12の包括遺贈を行いました。
遺言の趣旨を記しておく
先にも書きましたが、相続の場面では感情的な対立が生じてしまうことがあります。ですので、遺言になぜこのような遺言をしたのかを明確に書いておき、自分の意思を相続人に伝えるようにしておきましょう。例えば、以下のような文面です。
「受遺者のKとLは、今まで献身的に遺言者の面倒を見てくれました。そのことに感謝して、私の財産の一部を遺すこととします。どうか私の意思を尊重し、争いの無いようにしてください。」